Independence Performance Series vol.2 MARGINAL CONSORT
ANTIBODIESによる実験音響パフォーマンスシリーズ第2弾
Performance:
MARGINAL CONSORT
ANTIBODIES Collective
久下恵生
YPY
PROJECT
DETAILS
1997年の活動開始以来、長い間1年に1度しか公演を行わなかったにも関わらず、近年国際的な評価を高めている集団即興プロジェクト、マージナル・コンソート。即興をめぐる抽象的、政治的、ときには神秘主義的な理念から完全に自由なパフォーマンスは、「行為」の即物性や「音」の無名性を「音楽」に対置しているのでも、「個」と「全体」の弁証法をドラマ化しているのでもなく、「集団」「即興」「プロジェクト」という言葉さえも彼らのあり方を正確に表せてはいません。
小杉武久音楽教場(美学校、1975年)で出会った異なるバックグラウンドのメンバー(今井和雄、越川T、椎啓、多田正美)が「音」と「音楽」のはざまで、ヴィオラ・ダ・ガンバからエレクトロニクスまで、竹から水まで、楽器・非楽器を問わずさまざまな素材を鳴らし空間的・時間的に展開する、体験しなければ絶対に分からない3時間でした。聴き手がどこにいるかによって音が全く違う音像空間となりました。
++上演に際してのFlyer掲載文章 from カジワラトシオ++
人間の感覚器官のなかで唯一全方位に向けられているのが耳という奇妙なデザインであり、聴覚だけが夜も眠らないということをよく考えます。言葉以前から耳は人類をその敵や突然襲ってくる無秩序から守る役割を果たしてきた。しかし、国家主義的な制度と大量消費社会の原理に晒され,人間社会における本来の役割を剥奪されてきたのが「音楽」というものだろう。音という現象の知覚、刻み、唄うこと、踊ることは本来人間の存続にとってどのような役割を果たしてきたのか? 創作者である私たち自身が自主的に学び、伝えるための時空を再発見することを目的とした「Creative Independence Performance Series」の第2章は、昨年のアルヴィン・ルシエによる驚愕のパフォーマンスに続き、これまた「音楽」の概念を覆す即興集団「マージナル・コンソート」をお迎えします。この西部講堂に小杉武久さんとタージ・マハル旅行団が来られたのが、ちょうど私が産まれた頃になるかと思いますが、マース・カニンガム・グループの舞台裏で初めて小杉さんにお会いしたのはそれから20年以上が経ってからのことでした。昨年の回顧展『音楽のピクニック』では、西部講堂に来られた際のチラシや白黒写真なども展示されており、胸が踊りました。それから間も無くして、惜しくも亡くなられた小杉武久さんは、今も私たちにとって大きなインスピレーションであり続けています。タージ・マハル旅行団に関しては音盤や文献の収集を90年代から行っておりましたが、その関連作の中でも極めて異様なオーラを放っていたのが、76年にコジマ録音のALM Recordsレーベルからリリースされていた小杉武久の監修による奇盤『East Bionic Symphonia』でした。マージナル・コンソートの原型と言えるこの謎の集団によるライブ録音を初めて聴いた際には、70年頃の小杉武久さんが「タージ・マハル旅行団」とその集団即興に関わる思想や、パフォーマンス空間の中で起こる様々なアクシデントや感覚の衝突を編み物のように展開していく手法そのものを積極的に伝え、方々で世代や文化差を超えて実験的なセッションに関わっていたという実感に感動しました。この時代の様々な録音に散りばめられた「小杉節」に出会うたびに笑顔になってしまうのは私だけでは無いでしょう。00年代に入りこのレコードが欧州のレーベルから再リリース(海賊盤?)された辺りから、P.S.F.から「Collective Improvisation」(97年)をリリースしていたマージナル・コンソートの集団即興や、各メンバーの国境を越えた即興演奏家たちとの交流に国外からの注目が集まり始めたように思います。近年にはご存知ベルリンのPANレーベルから08年のライブ録音が突如リリースされる等して、その突然変異性にタージ・マハル譲り?のものを感じますが、個人的には、今井和雄さんと斎藤徹さんのプロジェクトであった「Orbit」なども印象的なシリーズでした。私たちも度々活用させて頂いた今は無き東京の空間「SDLX」での定例行事となっておりましたマージナル・コンソートによる長尺の即興も今となっては伝説でありますが、そこではダダイズムから小杉武久音楽教場、イースト・バイオニック・シンフォニアの時代を経たのちに、長年に渡って高周波な即興パフォーマンスの場に身を投じてきたメンバーたちによる独自的な再検証が加えられてきた結果として浮上してくるスリルと発見の音場が立ち現れておりました。アンプリファイド・オブジェクトや水を使った極めてフィジカルで変則的なパフォーマンスに焦点を絞ると、どこからか民族楽器やヴィオラ・ダ・ガンバなどの耳馴染みのある音色が織り交ざってきて、いつしか電子音に浮遊している全体に意識がパンアウトしていたりする。それは時空を飛びまわる不可視なるものに自らが近づいていくというような能動性を喚起させると同時に、忘れていた平衡感覚を取り戻していくかのようなセンセーションに全知覚がマッサージされているような体験でありました。普遍性とアクシデントが混在し交差するマージナル・コンソートのパフォーマンスを、タージ・マハル旅行団の時代から半世紀近くを経た今日の西部講堂という空間で私たちは何を体験するのか?? これは半世紀後の世界を考える上でも貴重な一夜となることは間違いないでしょう!!
初日はコレクティヴの面々による回遊型集団即興の夕べとなります。今回はYPY(日野浩志郎)も参加、いつもながら特殊サラウンドも組むし、美術もダンスも音の帯域に絡んでくるような展開に加え、スペシャル・ゲストに久下恵生さんをお迎えします。打楽器奏者としてのルーツを生まれ故郷の「だんじり祭り」とする久下さんの演奏活動は、「愛欲人民10時劇場」等と共にピナコテカからリリースされた「Pungo」(82年)に始まり、マヘル・シャラル・ハッシュ・バズ、篠田昌已ユニット、パラダイス・ガラージ、Flying Rhythmsなど多岐に渡ります。久下さんの鬼気迫るアクショニストなパフォーマンスが、多面的に構成された空間にどう絡んでくるか。これも見逃せないところでしょう。私たちも3時間はやる予定です。両日フードやバーもやります。本来この類の催しは美術館やホールみたいなところばかりじゃ駄目で、一杯呑みながら楽しむのが良いかと思います。秋の夜長には京都の名刹、西部講堂へ是非ともお寄せくださいませ!!(カジワラトシオ)
INFO
DATE:2020/11/9、10
PLACE: 京都 西部講堂
ARTIST
演出/音楽:カジワラトシオ
演出/振付/出演:東野祥子
美術:OLEO
特殊美術;装置:関口大和
出演:ケンジル・ビエン、菊池航、ミナミリョウヘイ、瀬尾彩優貴、ほか
美術スタッフ:ヤノタカオ、西村立志、モリケン
音響:HAMASTAR
記録:Yoshihiro Arai
協力:月桃食堂、Yurinx、三宅史子、西部講堂連絡協議会、劇団ケッペキ、諏訪裕美、ほか
制作:滝村陽子
●今井和雄
1972~85年、ギターを高柳昌行に師事。1974年、即興を中心に活動を始める。1975年、美学校小杉武久音楽教場に参加。1991年、「ソロワークス」を開始し、現在69回を数える。1997年、小沢靖(2008年死去)、現メンバーと共に「マージナル・コンソート」としての集団即興を開始。2005年、伊東篤宏(オプトロン)、鈴木學(ハンドメイド・エレクトロニクス)と「今井和雄トリオ」を結成。
●越川T
1975年、美学校小杉武久音楽教場に参加。テープ音楽等を作成。地方公務員としはアマチュアとしてロックバンド、ジャズバンドを経験。インド音楽(北インド古典音楽)、謡曲(観世流)にも親しむ。
●椎啓
1973~75年、美学校にて、赤瀬川原平に美術を、小杉武久に音楽を師事。各種センサーを用いたサウンド・システムや物理的原理を応用したサウンド・インスタレーションを制作。自己の作品の他に、多くのパフォーマーやダンサーに装置や音響で協力している。2001年12月から、国際芸術センター青森にてエンジニアとして活動中。
●多田正美
1974~79年、即興グループ「GAP」結成活動。1975年、美学校小杉武久音楽教場に参加。1978年、同じ樹を同じ時間365日間、365枚撮り続け、22年後の2000年、オランダPennings Galleryにて再プリント初個展。1996年、画廊の中にテントを張って観客が覗く『真面目なサーカス』展。2002年からネパールの古い祭を見はじめ、2006年、現地作家らとライブ・パフォーマンスおよび酒飲む会“Art-Full Nepal”。
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久下恵生
久下恵生(ドラムス、Eパッド) 大阪・南河内生まれ。地元の「だんじり祭り」の影響が今日のドラム演奏の原型となる。 79’頃より吉祥寺「マイナー」で工藤冬里(マヘル)、石渡明廣(渋谷オーケストラ)らとセッションを重ねる。80’PUNGO,FILMSに参加。83’渡米し、ストリート、教会などで演奏する。帰国後、マヘル・シャラル・ハシュ・バズ、篠田正己ユニット、ストラーダ、パラダイスガラージ(豊田道倫)他、セッションしたミュージシャンとしてウィリアムブレイカー、ECD、インキャパシタンズ、梅津和時、原田依幸、裸のラリーズ、三上寛、高田渡、清水一登などに参加。2001’Bumblebee Recordsより、向島ゆり子プデュース、内田直之の録音&ミックスにより初のソロ・アルバム「KUGE」をリリース。様々な音楽ファンの度肝を抜く。近年はご存知、気合のドラム&パーカッションのバトルを激スペーシーにダブ・ミックスした希望のトビ音ユニットFLYING RHYTHMSとしてラティール・シー、内田直之と共に活躍している。
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YPY
前衛的インストバンドのgoat、異形ハードコアバンドのbonanzas、そして2019年5月に〈EM Records〉から発表した3rdアルバム『Be A Little More Selfish』も好評のソロプロジェクトYPY、また大編成のVirginal Variationsでは電子音と生楽器の新たな在り方を提示してきたミュージシャン/コンポーザー、日野浩志郎。2013年からは主宰レーベル〈birdFriend〉を通じて、国内外の優れたミュージシャンの音源の発掘と紹介にも積極的に取り組んでいるほか、近年は太鼓芸能集団・鼓童への楽曲提供を行うなど、その活動は音楽表現と音楽環境へのアプローチにおいて多角的な広がりを見せている。
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